#005|完成形を、崩した
作り込む前に、確かめる順番へ
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ある夜、自分の計画書を読み返していて、手が止まった。
商品が、五つ並んでいる。
入口になる小さな診断から、本格的な実装支援、その後の運用支援まで。ぜんぶ、値段までついている。
三年分の売上の予測も、きれいな表になっている。
我ながら、ちゃんとした計画書だな、と思った。
何度も書き直してきたから、見た目は、けっこう立派になっていた。
でも、そのとき、ふと、おかしなことに気づいた。
この五つの商品、まだ、たった一人のお客さんにも、当てていないのである。
誰も「欲しい」と言っていない。
誰も「これにいくら払う」と言っていない。
なのに僕は、値段をつけて、三年分の数字まで、頭の中だけで組み上げていた。
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そこで、はっとした。
僕は、引き算する力を、いちばんの売りにしている人間である。
何をやらないかを決めるのが大事だ、と、えらそうに語っている。
なのに、自分の事業では、確かめる前に、全部を足して、作り込んでいた。
これは、言ってることと、やってることが、ずれている。
いちばん、やっちゃいけない自己矛盾だ。
しかも、思い当たることがあった。
前に退いた事業も、たしか、こういう作り込みから、歯車が狂っていった気がする。
頭の中で完璧な絵を描いて、それを現実に当てる前に、走り出してしまう。
で、走り出してから、現実とのズレに気づく。そのときには、もう、引き返しにくい。
調べてみたら、AIの導入って、世の中の試みの六割くらいが、うまくいかずに終わるらしい。
理由の多くは、現場に合わない大きな実験を、いきなり始めてしまうことにあるという。
それを読んで、ぞっとした。僕がやろうとしていたのも、まさにそれだったからである。
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もう一つ、このとき、自分に課したことがある。
売り始める前に、自分のやり方が本当に効くのか、協力してくれる現場で、一度だけ、数字で測る。
記録にかかる時間が、僕のやり方を入れる前と後で、どれだけ変わるのか。
それが出なければ、売るのをやめて、商品ごと、作り直す。
約束を、約束のまま売らない、ということである。
当たり前のようだけど、これをやらずに、頭の中の効果を、さも事実みたいに売り始める人は、たぶん多い。
僕も、危うく、その一人になるところだった。
だから、計画の順番を、組み直すことにした。
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完璧な計画を先に作るんじゃなくて、まず、小さく確かめる。
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本当にその課題で困っているのか、聞きに行く。
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中身を作り込む前に、見た目だけの見本を見せて、反応を見る。
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効果が出るのか、ちっちゃく試してみる。
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それで、手応えがあってから、ようやく、ちゃんと作る。
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作ってから確かめるんじゃなくて、確かめてから作る。
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書いてしまえば、当たり前のことだ。
でも、この当たり前が、計画が綺麗になればなるほど、見えなくなる。
立派な表とグラフができてくると、もう、それが正しいような気がしてくるのである。
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正直に言うと、崩すのは、こわかった。
せっかく時間をかけて作った完成形を、わざわざ、未完成の状態に戻すわけだから。
もったいない、という気持ちが、何度も湧いた。
ここまで作ったんだから、このまま進めたい、という誘惑も、強かった。
でも、やってみて、すっきりした。
五つの商品を、信頼を積みながら一段ずつ上ってもらう階段に組み直して、いちばん高い商品に進む前に、必ず小さく試す段を、はさむようにした。
売る前に、相手の現場で、それが本当に効くかどうかを、一緒に確かめる段である。
こうしておけば、僕も相手も、大きく踏み込む前に、引き返せる。
完成度の高い計画って、安心する。
でも、たぶん、その安心が、いちばん危ないのだと思う。
綺麗な計画は、「まだ何も確かめていない」という事実を、見えなくしてしまう。
立派に見えるほど、自分でも、それを忘れてしまう。
だから今は、わざと、未完成のまま走ることにしている。
完璧に見える計画書より、確かめながら書き換えていける計画書のほうが、たぶん、最後まで生き残る。
これは、強がりじゃなくて、前に一度こけたから言える、実感である。
次回は、この「確かめてから作る」順番にするために、僕が何を捨てたかの話をする。
足し算を、やめた話である。
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