#004|谷間に、立つ
誰も立っていない場所を、わざと選んだ
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自分の立ち位置を、どこにするか。
計画を作っていて、いちばん時間がかかったのが、ここだった気がする。
理由はシンプルで、僕には、これといった一番が、ないからである。
AIにくわしい人は、もう世の中に、山ほどいる。
看護の現場を深く知っている人も、たくさんいる。
経営をやったことがある人も、いる。
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その中で、僕は、何で勝つのか。
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一個ずつで見たら、僕より上の人は、いくらでもいる。
AIだけなら、ずっとくわしい人がいる。看護だけなら、もっと現場に長くいる人がいる。経営だけなら、もっと大きな事業をやった人がいる。
最初は、どこか一つで尖ろうとしていた。
いちばん手っ取り早く見えたのは、AIの発信で突き抜ける道だった。
新しいツールをいち早く試して、使い方を解説する。フォロワーさんも増えやすい。
実際、しばらくは、その方向で発信していた時期もある。
でも、やってみて、しっくりこなかった。
僕より速い人、僕よりくわしい人が、次々に出てくる。
それに、ツールの解説は、ツールが変わったら、価値が消える。足元が、ずっと揺れている感じがした。
何度考えても、一点で勝つには、僕は、どれも中途半端だったのである。
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それで、ある時、考え方を変えた。
一点で勝とうとするのを、やめた。
代わりに、三つが重なる場所に立つことにした。
1.看護師であること。
2.元経営者であること。
3.AIを、実際に毎日使っていること。
この三つを、同時に持っている人は、たぶん、そんなに多くない。
一つ一つでは負けても、掛け合わせると、誰とも被らない場所ができる。
僕はその場所を、谷間って呼んでいる。
谷間は、人気の場所じゃない。
みんなが立ちたがる、わかりやすい山の頂上じゃなくて、その山と山の間にある、ちょっと地味な窪地である。
派手じゃない。最初は、こんな地味な場所でいいのか、と不安にもなった。
でも、医療介護福祉にAIを届けようとした瞬間に、この谷間にいる人間が、いちばん必要になる。
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ここの事情を、少し書いておく。
日本は、先進国の中でも、AIやデジタルの活用が遅れている。その中でも、医療介護福祉の世界は、特に遅れている。
なぜか。
現場の人は、AIの言葉が分からない。
AIにくわしい人は、現場の事情が分からない。
経営の判断をする人は、その両方が、なんとなくしか分からない。
三つの世界が、お互いの言葉でうまく話せないまま、止まっているのである。
だとしたら、必要なのは、新しいすごい技術じゃない。
現場の言葉も、経営の言葉も、AIの言葉も、ぜんぶ少しずつ分かって、その間に橋をかけられる人なのだと思う。
僕は、その橋になれる場所に、立つことにした。
それぞれの世界で一番になれなくても、橋になることは、できる。
そして、橋は、頂上の人より、たぶん長く必要とされる。
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一度、業界を見渡して、競合になりそうな人たちを、ざっと分類してみたことがある。
AIの活用を教える人。看護の現場をよく知るコンサルの人。業務のシステムを売る会社。
どこも、三つのうち、一つか二つは持っていた。
でも、三つ全部を、現場の温度で語れる人は、僕が探した範囲では、ほとんどいなかった。
地味な谷間は、意外と、空いていたのである。
人気の頂上は混んでいて、谷間はがらがら。だったら、僕は谷間でいい。
差別化って、何か一つで尖ることだと思われがちだけど、たぶん、違う。
人と同じ要素でも、組み合わせの数が増えるほど、真似されにくくなる。
AIだけなら、すぐ抜かれる。
でも、看護師で、経営も知っていて、AIも使う、という掛け算は、そう簡単には真似できない。
資格も、痛みも、現場の時間も、ぜんぶ必要になるからである。
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一点突破じゃなくて、掛け算。
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これは、特別な才能のない、普通の人間がとれる、たぶん唯一の戦い方なのだと思う。
僕自身が、その普通の人間だから、よく分かる。一つで勝てないなら、組み合わせで勝つしかない。
しかも、この掛け算は、たぶん、誰にでも一つはある。
自分の中の、ばらばらに見える経験を、無理に一つに絞らないで、重ねてみる。
その重なりが、その人だけの谷間になるのだと思う。
次回は、その谷間に立つために作った計画を、僕がいちど、わざと崩した話をする。
完璧に見えてきた計画ほど、危ないと気づいたからである。
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